月刊ニヒリスト

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「岬の兄妹」 感想

今日、「岬の兄妹」を観てきた。あらすじとしては、片足が不自由な兄と自閉症の妹が同居していて、兄が仕事を失ったことをきっかけに生活が困窮し、兄が妹に売春をさせるという内容だった。映画を見たあと、僕はいつもこの映画は何を言いたかったのか(何を問題提起したかったか)考えるようにしているのだが、僕が思うに、この映画の主題は「生活が困窮したからと言って、(妹が性行為を喜んでいるように見えるからと言って)判断能力を持たない妹に売春をさせていいのか」というものだった。普通に考えて、駄目だと思う。なぜなら妹は判断能力を持たないから。何も知らない子供に「あそこのおじさんとセックスしたらいい事ある」と言って、売春させるのは駄目でしょう。

 

しかしこの映画ですごく気になったのは、なぜ生活保護に頼るという発想が出てこなかったという点。警察官の友人も出てくるのだから、兄が仕事をクビになった時点でそう助言すればいいのに。そしたら、嫌がっていたお金を貸さなくてもいいし、岬の兄妹の妹が売春をしなくて済んだのに。まあ、警察官の友人が気が利かなかった、かつ岬の兄妹が生活保護を知らなかったということなのかしら。

 

思い切りネタバレになるが、ラストシーンで売春を散々やらされた挙げ句、妊娠して中絶した妹が自殺をほのめかすシーンがあるのだが、あれはたぶん、兄への抗議なのだろう。妹のことをちゃんと見ずに自分勝手な判断をして売春をさせた兄への抗議。しかし正直なところ、妹をちゃんと見たところで妹の気持ちはわからなかった気がする。それくらい妹が何を考えているのか分からなかった。時々する癇癪で、それが嫌なんだろうなと分かったり、崖で自殺をほのめかすシーンだったりではある程度分かったが。あと、妹が気に入っている小人症の男の家の前で癇癪を起こしたときは、小人症の男に会いたいんだなとは分かった。しかし売春という仕事自体にどんな感想を持っているのかは最後までわからなかった。

 

それから兄の夢の中のシーンで、人手が足りなくなって兄に仕事に復帰しないかと誘う元同僚を「客」と勘違いして、妹が服を脱がしにかかったのだが、兄がそれ見て「誰でもいいのかよ!!」と激怒していたけど、「お前がそうさせたんだろ!」と心の中で突っ込んだ。夢の中で兄は公園の遊具で楽しく遊んで子どもの世界に浸っていたけど、あれは妹に売春をさせた罪悪感から来ているのだろうな。

 

しかしやっぱりもうちょっとテーマを深く掘り下げてほしかった。兄が妹に売春させた金で生活していることを内省するシーンがなかったから。なんか兄が妹に売春させた金で風俗とか行ったらちょっとはなんか考えるんじゃないか。あるいはもっとエグい方法で稼ぐ同業者を見つけるとか。

(2018/05/08 加筆)

ストーリーテリング的にも物足りなかった。妹に売春をさせる→妊娠→中絶(→自殺)は映画を見始めた序盤からある程度想像がついたので、それをそのままやられて「はい。終わり」と言われても映画に1900円も払ったかいがないと言わざるを得ない。

まあ、ストーリーテリング(物語的な面白さ)が映画の全てではないので、そこは目を瞑るにしても兄の立場が最後の最後まで中途半端なのがいけなかった。この映画で兄は終始戸惑っている。序盤で妹が他の男にやられて帰るのを見て戸惑い(怒り)、金欠で妹に本格的に売春をやらせている間も戸惑い、挙句の果てには妹が妊娠して中絶手術を受ける最中にも、戸惑っている。それというのも先述の通り、一度立ち止まって自分の立場を決めるということをしなかったから(内省シーンを入れなかったから)に尽きる。覚悟を決めて中絶後も妹に売春をさせるのでも、罪悪感からぱっと止めるのでもいいのだが、なんか決めてほしかった。ずっとずるずる態度を決めかねて、妹の真意の伝わらない(どうとでも取れる)挙動に行動を委ねているのが煮え切らない感じで物足りなかった。

 

空腹のあまり、ティッシュを食べるシーンは思わず笑ってしまった。

以上、感想でした。


映画『岬の兄妹』コメント予告【2019年3月1日(金)全国公開】

 

公式サイト(https://misaki-kyoudai.jp/

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